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守 章企画 新津保 建秀 個展
展覧会タイトル;『往還の風景』
会期:2022年 8月20日〜10月2日 (OPEN土&日の12時〜18時)
・新津保さんのこと
新津保建秀さんとは1995年に共通の知り合いの画廊が移転した跡地で『若い人たちで何かやれば?』との画廊主の申し出で、2ヶ月ぐらいのあいだリレーションで個展をやったメンバーでした。
たしか、僕が最初に展覧会をやったあとに新津保さんだった。
展示前と展示後に参加している四人の作家とキュレーション担当の画廊主の娘さん、たまにゲスト作家も混じってディスカッションを行うミッションでした。
僕は事前のアイデアとは違い、後に三人が個展をする最初の展示なのに壁に大きな穴を二つも開けてしまい弟以外の全員から大目玉を喰らいましたが、新津保さんは見事に穴跡を塞ぐインストールをしてみせた。
そこには展示中に食べたマドレーヌの敷紙も大小の写真と共に構成され、軽やかで甘い香りが漂う卵色の空間だった。新しさに嫉妬から罵ってしまった。
そこから時は過ぎて、二年前にアートドラッグセンターに於いて企画展を開催させて頂いたOJUNさんとの打ち合わせで藝大を訪れたとき「ウチの大学に新津保がいるんだ」と、聞かされ てっきり特任講師として写真技術を教えているのかなと思っていたら、「油画研究室で絵を描いているんだ」と聞かされ驚いた。
写真家としては確固たる成果をあげてきた新津保さん。あえて大学院という場に飛び込んで研究実績を積むまでもないとも思えたけど、絵画との経験を通じて、改めて『写真とは何か』という異分野の眼を獲得し、見ることの意味を探るために必要だったのだろう。
ここ石巻で、彼の『unknown time』を楽しみに思う。
守 章(アートドラッグセンター共同代表)
2015年の夏、カメラを置き、シンプルな画材だけを携えて私が幼少期を過ごした東京の杉並区にある西荻窪の街を再訪した。そのときは、街を流れる川の水源にあたる公園から伸びる川沿いの道を記憶を頼りに歩きながら、ドローイングの制作を行った。地面の上に紙を置いて手のひらと描画材を介してその場所に触れながらイメージを探ってゆく過程は、記憶のなかにある時間のそのものの不定形なフォルムに触れているかのような、場所そのものに触れているかのような感覚を心のなかに認識する契機となった。
それから5年を経た2020年の秋、NHKが放映する東日本大震災10年 特集ドラマのポスター撮影のために、物語の舞台となっていた石巻の街を訪れた。石巻は震災の直後の取材で赴いて以来だった。カメラを手に街を歩くと、目の前の風景に、かつてみた風景のなかに流れていた時間、石巻への列車のなかで読んだドラマの脚本のなかにあった物語のなかの時間が重なってくるように思えた。
翌年、2021年の春、そのドラマが放送される数週前、旧友の守章さんからとても久しぶりに連絡をいただいた。守さんは活動の拠点を東京からご実家のある石巻に移しておられ、その日から彼との交流が再び始まった。これと同じ頃、研究会「蜘蛛と箒」を主宰する石川卓磨さんより半年間にわたる郵便を用いた定期購読型作品プロジェクトへの誘いや、角川文化振興財団からの武蔵野の風景を撮影する依頼などがあり、国分寺崖線上のさまざまな場所へ赴いて制作をおこなった。そうした作業のなか、雑誌『GINZA』誌にて朝吹真理子さんの文章に、その年の夏休みに撮った私の娘の写真を寄稿したとき、別々に並行していた出来事が微かな輪郭とともなって交差したように感じた。
それを促してくれたのは、遠方に住む旧友との、メールや電話での、ときには対面での対話だったと思う。それらは、記憶の彼方にあった作業の断片と現在の作業を繋いでくれた。
本展では、昨夏に感じた微かな輪郭を、彼が運営する場のなかで眼差してみることを試みたいと考えている。
新津保 建秀 SHINTSUBO Kenshu
1968年生まれ。写真家。主な作品集に、『\風景』(角川書店)、『記憶』(FOIL)、複雑系科学/ALife研究者・池上高志との共作『Rugged TimeScape』(FOIL)など。撮影を手掛けた書籍に、『Hillside Terrace 1969-2019』(現代企画室)、『思想地図β2 震災以後』(ゲンロン)など。近作に、詩人の立原道造(1914-39)が生前に構想した別荘を主題とした《往還の風景_別所沼公園》(さいたま国際芸術祭2020)などがある。 現在、国際芸術センター青森に於いて開催中のプログラム、 景観観察研究会「八甲田大学校」(〜9月25日)に出展している。
協力:蜘蛛と箒、(株)マガジンハウス『GINZA』編集部
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