2020/09/22

岡本羽衣「Gazing Horizontally / 平遠 」展

 

リボーンアートフェスティバル2019に生まれ落ちたART DRUG CENTER において、岡本羽衣「Gazing Horizontally / 平遠」を開催いたします。会期は10月3日~11月29日(営業:土・日12時~18時)になります。岡本は石巻のキワマリ荘(おやすみ帝国)でも個展「や、をうん」(2018年)を発表しており、部屋の中に宮城県で採れる石の粉末を敷き詰め、巨大な石を配置して石巻の風景を日本庭園のようなインスタレーションに置き換えた作品を制作しました。今回の展示では、前半の10/3~25日の10月中は石巻に滞在しながらリサーチを通して、週末に公開制作・ライブパフォーマンス(16時30分から17時)を行い、後半の11/7~29日は滞在後の制作成果の発表展を行います。すでに公開制作は始まっており、注目を得ています。



岡本羽衣 「Gazing Horizontally / 平遠 」展


期間:10月3日(土曜日)~11月29日(日曜日)

OPEN:土日12時~18

前半:10/3~25:公開制作:ライブパフォーマンス:16時30分から17時。
後半:11/7~29:滞在制作成果 発表展





ステートメント:

「何が怖いって、海が見れないことが一番怖いのよ」

お婆さんがそう話している時、外では音がしないほどちいさな小雨が降っていた。海もまたその雨によって灰色のもやに覆われ、穏やかなラインを水平に保っていた。

新しい防潮堤は、その海を背に高い壁が建てられていた。それは、横から見れば巨大な面であり上空からみれば線になる圧倒的な記号的構造物が、自然の中に突如として現れていた。まるで自然と人間の境界線(ボーダー)にも見えるそれは、我々に安全性を与えてくれると同時に、威圧的な存在としても我々の前にそびえ立っていた。

海が見れないことが一番怖いという言葉は、自然の恐怖から守るために作られたはずの線あるいは壁面が、かえってそこで暮らす人々にとっては海が見えない現実に恐怖を感じさせられることがある、ということを意味している。それはつまり暮らしの一部として海を見続け、その見慣れた風景の中で営んできた人々にとって、海が見えない恐怖とは海の「不可視さ」によって起きた恐怖感であり、底冷えしてくるような内側からゆっくりと体を覆うものだ。それは単に自然の脅威による恐怖ではなく、異なった種類の恐怖心である。

大きな防潮堤の面によって覆われた「不可視な」海の線は、もはや我々の想像の中だけになってしまった。いま残っているのは、その海を見てきた人たちが経験してきた海の音や匂い、湿度や色合いといった海の「質感」とそれを感じた人々の記憶だけだ。だが、それらの個々の記憶は、最小限の「線」として通づるはずである。そして、そこに暮らしていない人々がもっている純粋な「線」というイメージもまた、広がりゆく海の水平線に繋がり得るのではないか。

我々は、もう一度見えない海の線を思い描けるだろうか。海の線とそこに交差する我々のイメージの旅をはじめる。




『羽衣くん』


羽衣くんの作品を初めて見たのは、昨年の11月、北千住のBUoYでの「Once Was Enough」であった。 会場では葬儀の際に流れる荘厳な楽曲が自身に掛けられたポータブルプレーヤーから流れ、その携帯した楽曲と共に空になった花瓶を携えて歩む羽衣くんは、自作の絵画の前で花瓶に注がれた水を口に含み、口伝えで注いだ水の花瓶に一輪の菊の花を挿すという行為を行なった。 私はその場に遭遇した瞬間に*映画「幻の光』のあるシーン を思いだした。 曇天の空の下で水平線に沿う遠い葬儀の列であり、水平線に捧げられたシーンであった。 日に照らされたさざ波の光、夜のレールの彼方に見えた光。 人間の精が無くなった時に見える光はこの世のものか あの世のものか。人間の生と死という重いテーマで暗い雰囲気が漂う中に見えた光は希望の象徴のようにも思えた。 そんな映画であった。 彼の制作は最初の直感に従って進んでいく。 作品がどういう結末になるかについて、特定の意図や予測は持たずに最初の直感を限られた空間の中で長い時間をかけて検証する。 石巻での滞在制作を媒介とし転位する彼の目論見に注視したい。

守 章(アーティスト)


*映画:幻の光(英題:Maborosi) 1995年 是枝裕和監督作品


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10月3〜4日のパフォーマンスより。


・略歴

岡本羽衣(Okamoto Hagoromo)東京芸術大学大学院 美術研究科 博士後期課程に在籍

1990年生まれ。「クオリティカル・エヴィデンス」(質的証拠品)をテーマに、今なお残存しながらも社会のなかで置き去りにされ続けてきた場や歴史的事件などに焦点を当てながら、個人の身体を介した経験から生まれる質的な記憶を掘り下げ、私たちに内在化されたイメージの地平を問う。これまでの展示に「The Noisy Garden, The White Crypt」(ART TRACE gallery: 東京、2020年9月上旬)、「Endless  Void」(Democracy and Human Rights Memorial Hall:  ソウル、2019)、個展「Middle of  Nowhere」(mumei: 東京、2018)、個展「や、をうん」(おやすみ帝国 /  石巻のキワマリ荘: 宮城、2018)、個展「Ich  habe nicht mal gefrühstückt」(SomoS:  ベルリン、2017)など。











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11月からの展示のみ: